島津家関連書籍まとめ

2017/07/15 2017/08/06

日に日に増えていく、島津関連書籍。本棚は着実に席巻されつつありますが、少しずつでも感想とかを添えて紹介していこうと思います。

  1. 破天の剣(天野純希:著)
  2. 都城の乱(田代義博:著)
  3. 九州戦国物語(青崎庚次:著)
  4. 衝天の剣・回天の剣(天野純希:著)

破天の剣(天野純希:著)

出版社
角川春樹事務所
著者
天野純希
発売日
2012年12月
ISBN
9784758412063

現状、個人的に最も好きな小説です。

描かれているのは、島津家久の初陣である廻坂の合戦から。まだ、父である島津貴久が存命であった頃からで、そこから家久が急死する過程までをとても丁寧に描いてあります。ですので、時期としては1561~1587年の期間を描いた小説ということになります。

主役である家久の描き方が、とても分かりやすい描写になっています。
戦のことしか考えることのできない、まるで純粋な子どものような人物。天才的な武将であった家久は、もしかしたら本当にそうだったのではないかと思えるほど、すんなりとそれを受け止められ、尚且つ魅力的に見せてくれます。時代を一気に駆け抜け、自分が必要とされない時代が見えた時にあっさりと消えてしまった、島津家久という光の鮮烈さが描かれています。
個人的には、山田有信の存在と人物像もとても好きですね。

歴史小説というものは、どこか既に出来上がったキャラクターのような枠のある人物を描くことが多いので、こういう人物だったんだろう、という固定概念を持った上で描かれることも多いです。
島津家久という、名前は知られていても主役に据えられることの少なかった人物を描いているせいか、歴史をなぞっている小説というよりは、とても物語として読みやすい小説ではないかな、と思います。おすすめ。

著者は、島津義弘を描いた衝天の剣・回天の剣も発表してらっしゃいます。

都城の乱(田代義博:著)

出版社
鉱脈社
著者
田代義博
発売日
2013年4月
ISBN-10
4860614801
ISBN-13
978-4860614805

1599年に起きた、島津氏と伊集院氏の庄内の乱を描いた作品です。
庄内の乱を、伊集院忠真の視点から順を追って描き、伊集院家の滅亡までを描いています。

ページ数が少なめなので読みやすく、庄内の乱について知りたいというのであれば最初に読んでみると良いのでは、と思う作品ですね。こちらと、島津家側からの視点で描いた他書籍とを合わせてみると、歴史とは視点によって全く異なるものになるのだということを実感出来ます。

この作品は、何が好きって、きちんと御下(作中では於下表記)を描いてくれてることです。
庄内の乱は様々な悲劇や因縁があったかと思いますが、最も苦しい立場でその渦中に巻き込まれたのは、伊集院忠真の正室であった御下だと思うのです。御下は、島津義弘の次女。つまりは、忠真と戦った、島津忠恒の妹です(忠恒は義弘の三男で、後の初代薩摩藩主・家久)。夫と兄が戦うという状況下での彼女を、無視することなくきちんと描いてくれている作品です。

嫁ぎ先と生家と。選択を迫られるのは、この時代の女性にとっては致し方ない面はありますが、それでも胸が苦しくなります。出来ることなら、同様に肝付家と島津家の間で、全く違う選択を取った御南を描いた作品も読んでみたいところです。

九州戦国物語 (青崎庚次:著)

出版社
高城書房
著者
青崎庚次
発売日
2004年6月
ISBN-10
4887770537
ISBN-13
978-4887770539

短編で5編が収録された1冊です。いずれの作品も、九州の戦国時代を題材にしていますが、島津に関連するものが多いです。「松坂城炎上」「古処山城始末」「響が原異聞」「沖田畷戦術録」「佐土原館毒殺考」の5編が収録されています。

このうち、前半の作品がとても好きなのですが、とにかく「視点の面白さ」が他と異なります。
通常の歴史小説は相応に名前の残った人の視点から描かれるのですが、たとえば「松坂城炎上」に関しては、島津氏と蒲生氏との戦いを、北村城軍師の視点から描いています。非常に着眼点がユニークというか、他に類を見ない感じの展開になっていて、歴史を違った側面から見れる作品が並んでいます。

通常の歴史小説では展開がもう分かってるからつまらない、といった方にはとてもおすすめします。
ちなみに「古処山城始末」は、大友家と戦った秋月家の家臣である春沢家の嫡男とその婚約者を中心に描かれ、「響が原異聞」は、相良家や阿蘇家を取り扱っています。他では読めない、実に面白い歴史が描かれている作品です。

衝天の剣・回天の剣(天野純希:著)


 
出版社
角川春樹事務所
著者
天野純希
発売日
(上) 2016年7月29日
(下) 2016年12月1日
ISBN-10
(上) 4758412898
(下) 4758412979
ISBN-13
(上) 978-4758412896
(下) 978-4758412971

島津家久を描いた破天の剣の著者が、島津義弘を描いた作品です。
豊臣秀吉が祁答院で急襲を受けたところから始まっていますので、1587年からが描かれている事になります。島津義弘が50歳を超えてからになりますね。

そのため、基本的には苦境しかありません。上巻は朝鮮出兵が主になり、下巻は関ヶ原。常に苦しい、島津義弘です。

そういった中での尋常ではない屈強さと強靭さが描かれていますが、それ以上に個人的に良いなと思ったのは、国許との関わり合いですね。何がどうなって、島津家がいずれも出兵に非協力的だったのか。そのあたりが、作者の解釈でもあるでしょうが、すとんと納得するような形で単純な苦しい国事情で片付けていない感じで描かれています。
島津義弘を中心に描いていますが、島津義久や歳久、家久といった兄弟たちの存在感もきちんとあって、単なる戦記物というよりは兄弟を描いてくれた作品なんじゃないかな、と思いました。

また、破天の剣で描かれた家久のイメージがそのまま引き継がれていて、しっかりとそれを山田有信の存在によって仄めかされるというか苦笑混じりに思い出してしまうような感じが好きです。山田有信、存在感デカい。
あと、種子島久時がカッコいい。李舜臣との戦いの時の種子島久時が、何かこう超カッコいい。

ページトップ